さて2日目は、白馬岳頂上を越えて、三国境→小蓮華山→白馬大池→乗鞍岳→天狗原→栂池である。登りはほとんど無い。人生下り坂最高!(最近BSで火野正平さんがやってまっせ。「日本縦断こころ旅」)である。白馬山荘から頂上への時間15分を入れても、4時間15分ほどで行けるというのが雑誌等に書いてある所要時間だ。
白馬岳は、南北に伸びる稜線の両側の傾斜が著しく異なる非対称山稜の山である。富山県側は非常になだらかであり、長野県側は急斜面となっている。何でもフォッサマグナに沿って白馬岳が位置するからだそうだ。フォッサマグナではそれより西側が東側に乗り上げており、白馬岳が東側に傾いて見えるのはこのためである。
まあそう急ぐ事も無かろうという事で、頂上でゆっくりと風景を堪能し三国境(サンゴクザカイ)までくる。三国境は現在でも長野、富山、新潟の県境になっている。ここから雪倉岳、朝日岳方面へ行く道が分岐している。ここから見るこの方面の景色はすばらしい。なだらかな山稜と残雪のコントラストがこの世の極楽のようだ。天気も良い。
程なく小蓮華山山頂である。写真のように頂上には鉄の剣が空に向かって立っている。しかし現在、頂上付近では崩落が進み、この鉄の剣も立ってはいないし、頂上にも立てないそうだ。ここから振り返る白馬岳は、信州側の荒々しい岩稜が迫力ある風景を見せている。
小蓮華山山頂 母上は元気である
緩やかな稜線を下ること1時間あまりで白馬大池に着く。この稜線歩きはほんと最高である。左に雪倉岳や朝日岳それに残雪、右下にはこれから向かう栂池自然園、振り向けば白馬三山(白馬・杓子・鑓ガ岳)そして後立山連峰が一望の下である。
雪倉・朝日岳方面を望む 27年前の小生です。
白馬大池には山荘もある。さすがに当時の私でも知っているチングルマの大群落や後に最も好きな高山植物となるハクサンコザクラやハクサンイチゲなど本当に花が多い。下手なグルメレポートみたいで恐縮ですが、うまい、いや違うきれい、最高、すんばらしい。
ゴゼンタチバナ 葉っぱがサブトンのようでその上に座るように咲くからゴゼンタチバナだそうです。
ご存じチングルマ
ちょっと早いがここで昼ご飯となり、またまた大休止である。それにしても中々大きな池だ。サンショウウオも生息しているらしい。深い所は3~4メートルもある火口湖だそうだ。
このときは極楽気分です。
逆光で顔が見えなくて良いでしょう。
さて食事も済み、乗鞍岳方面に歩き出したころ、とんでもないお兄さんに出会う。彼は栂池方面から荷物を運んでいるボッカさんみたいだったが、ものすごい速さで登ってくるのだ。まさしく風のように去っていった。そして何分もしないころ、今度は「お先に」と我々を抜いていく。もう下山か、と思ったら、それから暫くしてまた登ってくる彼に出会うのである。さらにさらにまた抜かれるのだ。人間とは思えない。凄い人もいるものだ。(その時は我々がゆっくりだという事にあまり気がついていない。馬鹿だねえ。)
ところで少しいやな感じがしてくる。というのもこのあたり、岩がでかくて歩きにくい。岩の間を転がり落ちるように、降りていくのである。それもしつこい。乗鞍岳付近は岩だらけだ。足へのダメージが、ボディーブローのように効いてくる。
これです。これ。この岩どうよ。
これまた後から悟ったことであるが、登山の上手下手は下りである。このときは膝にとにかく負担のかかるような歩き方をしていたと思う。ペースダウンも甚だしくなってくる。膝が痛い。
ようやく天狗原に着くが、かなり疲労している。もう少しで栂池のはずなのだが、いやな木道や木で段を仕切ってある階段の道がとんでもなくしつこい。ここを曲がるともう栂池だ、と何度思ったことだろう。母も最初は大丈夫と言っていたのだが、そのうち大丈夫ではなくなってきた。
雑誌のコース所要時間には気をつけましょう。白馬大池から1時間50分だと。…そんなもんで着くか。(初心者&高齢者)たいへんな道である。北アルプスの洗礼ってヤツですか。いやもう二人ともフラフラ、ヨレヨレ状態で、何とか栂池自然園到着。時間は午後5時近かったと思う。
さてここからもう一つ、今となっては笑い話なのだが、疲れた体を鞭打つようなことが起こる。へとへとなのだからタクシーに乗っても良かったのだが、どういうつもりか節約しようとバスを待って、それに乗ったのである。
しかし何と、降りるときに私は荷物を間違えた。何しろ疲れているせいか思考能力はない、ザックはよく似ている。降りてすぐ気がついたものの、バスは出ていく。おいらはフラフラ追っかける。ばあさん後から「オーイ、オーイ」と、追っかける。息子もばあさんもよれよれで倒れそう。バス→おいら→ばあさん、の順でバスはどんどん離れていく。
あきらめてタクシーでバスを追っかけるという羽目になる。節約はどうなったの?倍以上値段がかかったじゃないの、という話である。
何とか荷物も手元に戻り、旅館に転がり込んだものの、体が動かない。必死の思いで入った薬草風呂の気持ちの良かったこと、現在までの人生で一番だ。
初めての北アルプス登山はこんな風に天国→地獄となってジ・エンドである。足の爪が2~3本死にました。
さてこれに懲りず、私は毎年北アルプスに出かけるようになる。母を連れたり、妻と行ったり、友を誘ったりして。(母と行くのが一番多いと思う。親不孝を何とか挽回しようとしたのだ。何と親孝行な息子だ。)